いまを生きるための思想キーワード

哲学や現代思想の低迷の時代の後に、サンデルの「正義」に関するメディア露出で、なにやら哲学のプチブームが到来したかのようだ。サンデルの切り口の分かりやすさは特筆すべきだろう。この本が目指しているのは多分、哲学や思想の様々な領域に、サンデルのような新鮮な切り口を提供することだろうと思う。そしてその試みはある程度成功していると思う。

筆者はこの本で現代思想の歴史、系譜から離れ、先の「正義」を手始めに、「善」、「承認」、「労働」、「所有」など20個余のキーワードを現代思想のエッセンスを用いて解き明かそうとする。「正義」に関しては、日本語の正義という言葉とサンデルの「正義」のズレを指摘する。「善」に関する議論では人類共通の「善」があるはずだ、という前提にたった議論の危うさが議論される。「二項対立」というキーワードも用意されていて、例えば反原発に象徴されるような幼児的な1か0かの議論を批判すると共に、二項対立的議論を二項対立として批判することで、全体が二項対立の円環から抜けだせなくなる危険性も指摘する。二項対立を生産的に批判するということは、実はなかなか難しいことのようだ。

良いのはこの種の本によく見られる衒学趣味が皆無で、哲学の有用性を良い意味で意識していることだ。例えばポストモダンに対する批判はあるが、「現象学とは何か」的な、役に立たない解説がないのがとても良い。僕としては、社会的規制手段としての「アーキテクチャ」の議論がとても整理されていて参考になった。インターネットの法的規制の問題で著名なローレンス・レッシグが、この「アーキテクチャ」という切り口を理論的に位置づけたことはよく知らなかった。自然、レッシグの著作を読んでみたくなった。

僕のひとつの価値判断として、「次の読書につながる本は良い本だ」というのがある。この本は現代思想のプレビュー程度の内容かもしれないが、僕にとっては十分読む価値があったと言える。

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