奇想の森

久生十蘭が面白かったので、十蘭の著作が入ったアンソロジーを借りた。鮎川哲也と島田荘司の選んだミステリーは選りすぐりだが、その中でも十蘭の作品は独特の輝きを放っている。ここに収録されたのは「ハムレット」という作品だが、他の作家に見ることのない重厚で濃密な物語世界だ。

通勤時にはスマートフォンで青空文庫からダウンロードした、十蘭の時代物を読んでいた。こちらは鋭い知性と異様に長い顎を持つ主人公が活躍する「顎十郎捕物帳」という続きもので、「ハムレット」とは全く違う軽快な読後感がある。

僕は一時、岡本綺堂の「半七捕物帳」が好きでよく読んでいたことがあった。十蘭の「顎十郎」には綺堂のような緻密な時代感はないものの、卓越したアイデアと魅力的な人物群の創造で、綺堂に劣らない娯楽作品に仕上がっている。綺堂や十蘭の時代に捕物帳というジャンルはほとんど完成されていたのだ、と改めて感じた次第。

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