暗号解読

「フェルマーの最終定理」に続くサイモン・シンの「暗号解読」を読みました。ハードカバーで約500ページの長編なのですが、今回も最初から最後までむやみに面白かったです。

「フェルマー」の時に、サイモン・シンは特に数論の応用としての公開鍵暗号方式の記述が巧妙だったと書いたのですが、彼の次の作品が暗号に関するものだったので、なるほどと納得しました。おそらく「フェルマー」を書いている途中に、次回作の構想が出来上がったのだと思います。

フェルマーの最終定理と同様、暗号の歴史もまた天才たちの物語です。僕もコンピュータの原型を考え出した悲運の天才アラン・チューリングとドイツの暗号機エニグマのかかわりなど、暗号の歴史の多くのエピソードを知っていたのですが、サイモン・シンはスコットランド女王メアリーが暗号を解読されたゆえに断頭台に送られることになった話など魅力的なエピソードを交えて、暗号作成者と暗号解読者の間の戦いという軸で、縦横無尽に暗号の歴史を綴っていきます。

また暗号ではないが概念的に近い話としてロゼッタストーンや線文字Bの解読などの古代文字解読の話も詳しく記述しており、古代史マニアの僕としては、特に興味深く読みました。

古今のあらゆる戦いで暗号は重要な役割を果たしてきたので、暗号にかかわった人たちの発見は常に国家によって秘密にされてきたのですが、現在の代表的な暗号方式である(発明者の3人の頭文字を取った)RSA符号も、実はその前に英国政府通信本部(GCHQ)の匿名の天才たちによって生み出されていたのでした。

この本の後半では国家安全保障のためとの理由付けであらゆる通信を傍受しようとする米国のNSAのような国家と、通信の秘密は基本的人権であるとする個人との暗号に関する闘争が話の軸となります。そして最後は究極の暗号、決して破ることのできない量子暗号方式の行方をにらんで終わることになります。

科学の壮大な歴史を書かせたら、現在サイモン・シンの右に出るものはいないでしょうね。脱帽です。

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