ビジネスマンのための「行動観察」入門

マーケティング手法として最近注目されている行動観察(エスノグラフィー)に関する本。僕にとっては、行動観察という手法には興味とともに疑問がある。行動を観察するって事実を把握するという意味で重要なことは明白だが、同時にそこから仮設を引き出すということは、とても難しいことだと思うのだ。

問題は僕のような普通の人がある程度のトレーニングを受けた後、行動観察により有用な知見なり提案なりが生み出せるのか、という疑問。もうひとつは、現代のマーケットを大きく動かしているのは特定の手法で生み出されたサービスやプロダクトではないことだ。iphoneなんてどうみたって行動観察的手法で生み出された訳ではない。スティーブ・ジョブズという稀代の天才が、通常のルールを超えたところで独自に生み出したものだ。果たして行動観察で、そのような先端的なプロダクトのヒントが得られるのだろうか。

で、感想なのだが、本としては中々面白くできており、興味深いエピソードが詰め込まれている。筆者がシャーロック・ホームズのように仮説を積み上げて問題を解決する姿は圧巻だ。ただ、事例が僕が求めるような先進的なプロダクトの話ではなくて、今ある仕事の流れをどう改善できたかというような、どちらかといえば「業務改善」という言葉がフィットする、西欧版のカイゼンという感じの事例が多かった。

行動観察は社会科学や行動心理学的に基礎を置くのだが、筆者は明らかにそのあたりの教育的背景があり、さらに普通の人より明らかに洞察力の鋭い人間だ。だからこの本を読んだからといって、また行動観察を勉強したからといって、筆者のようにシャーロック・ホームズ的な回答を生み出せるとは思えない。事実を正確に把握し、そこから仮設を生み出す重要性が一貫して強調されるが、それって全ての学問に共通の真理であり、行動観察だからという訳でも何でもない。

だけど、問題解決の手法として極めてオーソドックスなアプローチが様々な事例で解説されており、普通に役に立つ本だと思う。僕としては、途中から現代版のシャーロック・ホームズとして読んでしまったが、それもありだと思う。

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