五百羅漢

アート

友人の勧めで、江戸東京博物館で開催中の「五百羅漢展」に行ってきた。幕末の江戸に生きた狩野一信( 1816 ~ 63 )が 10 年の歳月をかけて描いた「五百羅漢図」全 100 幅の全てを初めて公開したもの。僕はこの一信という絵師は全く知らなかったが、この100幅は彼のおそるべき画力と細密描写の執念が結実した傑作である。絵は全て高さ2mくらいの大型で、綿密な色彩と細かい描写が施されている。それが100幅並ぶ様は、圧倒的な迫力の異空間を形成していた。

羅漢(仏陀の弟子)の表情はどこか曾我蕭白を思わせるが、蕭白ほどエキセントリックな感じではなく、聖人としての格調を保っている。餓鬼や地獄に落ちた人々の描写は躍動感があり、もっぱら想像力で書かれたであろう様々な禽獣の描写が活き活きとしている。中には西欧の影響だろうか、一角獣なんかも出てくる。安政3年の大地震を反映したらしい地震や洪水の絵も興味深い。

これらは幕末の動乱の時期に描かれたもので、六道をめぐる仏教の輪廻はダイナミックなものとして描かれている。しかし僕が感じたのは、むしろ世界観としての構造の強固さである。それは、例えばバチカンのサン・ピエトロ大聖堂で感じさせる安定して揺るぎのないキリスト教の世界観に近い感覚だ。バチカンでは巨大な石造りの構造物がそのような世界観を支えたが、狩野一信は筆一本でそれに匹敵するような世界を作り上げた。

こんな作品群が(僕を含めて)これまでほとんど知られていなかったということが奇跡的に思える。これはすでに日本の宝である。ぜひこの仏画が常時見られるような環境に置いて欲しいと思う。

帰りに館内の食堂でうどんセットを食したが、結構美味しかった。

コメント

  1. 藤井游惟 より:

    お久しぶりです。
    藤井游惟です。

    「考古学を科学する会」からのメールで既にご存じかも知れませんが、このほど拙著「白村江敗戦と上代特殊仮名遣い」のデモビデオを作り、YOUTUBEにアップしました。
    http://www.youtube.com/user/Youwee5847?feature=mhee#p/a/u/0/xPvxfGA_ews

    15分足らずのビデオで、↑をクリックすれば直接つながりますので、是非ご覧下さい。
    見ればわかりますが、このビデオを見るのに国語学や古代史などの予備知識は全く必要ありません。
    拙著を人にお薦め下さる場合は、まず最初にこのビデオを見るよう、お薦め下さい。
    宜しくお願いします。
    藤井游惟

  2. artjapan より:

    藤井様

    こんばんは。こちらこそご無沙汰しております。

    またまた藤井様のメールがスパムに掛かっていました。理由がよく分からない
    のですが、すいません(汗)

    ビデオを見させていただきましたが、私としては本を読んでビデオを見たほうが
    良く分かった気がします。多分、曲がりなりにも論点が把握できていたからで、
    あの時は頭の整理がついた気がしました。あの本は私に取ってはロジカルに
    完成された著作です。

    ただ、全くそのあたりの事情を知らない方にとっては、興味をもつところから
    入るわけですから、ビデオから入るのもありかも知れません。

    日本語南方系縄文人起源説のご研究の進展はいかがでしょうか。またぜひ
    まとまった形で著書等で広く発表されることを願っております。

    artjapan

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