もはや政治に対して批判する気力もない。たぶん大勢の人が、そういう無力感に囚われているのではないだろうか。政治的ニヒリズムが蔓延するのは良くない状況だ。
そんな気分の時に図書館で借りたのがこの本。ルパンの時代、1900年前後のパリはとんでもなく面白い時代だった。ベル・エポックを謳歌した伊達男と副題にあるように、当時のパリには世界中の貴族と芸術家、冒険家それにもちろん泥棒が集まっていた。この本は作者のルブランの視点とルパンの視点で、当時の熱気に溢れたパリを描写する。
秀逸なのが、著者がルパンをあたかも実在の人物のように扱い、その生涯、野望、足跡を語ることだ。アジトや収監された監獄はもちろん、カフェやホテル、駅をルパンのシリーズから振り返る。物語には当時の貴族が夢中になった自動車を、ルパンが自由にあやつる場面が多く出てくる。極め付きは、パリで活躍した実在のギュイヨというレース・ドライバーの年譜とルパンの活躍の時期を比較して、ギュイヨが実はルパンの変装した姿であったと結論していることだ。ルパンにふさわしい、しゃれた趣向である。
エネルギーの問題を抱え、これから日本は長い不況の時代に入っていく。日本人はすぐに「物作り」という言葉に自らを自己規定するが、僕はそれはちょっと安易だと思う。むしろ日本が頼りにすべきは文化の力である。日本で生み出された豊かな芸術や娯楽の力を今こそ解き放つべきだ。
平等主義や社会主義がもたらした吹き溜まりの中にいる日本に必要なのは、冒険心と洒落っ気のあるルパンのような人物かもしれない。この本を借りたのは、それを直感したからだったように思う。
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