清水義範の「猿蟹合戦とは何か」 清水義範パスティーシュ100一の巻 ちくま文庫
実家に帰省中に読んだ本のひとつがこの本。あまり嬉しい目的での帰省ではなかったので、気晴らしとして面白いことが分かっている本を選んだ次第。
「清水義範パスティーシュ100」は彼の主要な作品を集めた全6巻のシリーズだが、この「一の巻」は彼の真骨頂であるパスティーシュ(文体模倣)に正確に該当する作品を集めたものだ。特に表題の「猿蟹合戦とは何か」は、清水義範の名を世に知らしめた傑作だ。司馬遼太郎の文体をパロディで模倣すると言う、神をも畏れぬ所業なのだが、今読み返しても司馬遼太郎が乗り移ったとしか思えない完成度の高さだ。僕も清水義範の本はいくつか読んだが、パスティーシュとしては、この作品を超えたものにお目にかかったことがないような気もする。
その他も読んだことのある作品がいくつかあったが、読んだことがあろうとなかろうと読者をにやりとさせたり、感心させたり、大笑させたりと清水義範の作品は読者を退屈させることがない。例えば「彼ら」という作品は、スティーブン・キングの「IT」のパロディだが、筋が全く違うにもかかわらず、スティーブン・キングの雰囲気が充満していて、文字通り「にやり」としてしまった。最後まで何のパスティーシュか分からないものもあるが、それでもパスティーシュということ以前に、作品として成立しているから面白いのだ。
僕の清水義範の読書歴の中で言うと、パスティーシュではない作品の中では「蕎麦としきめん」が大傑作だ。以前人から借りて読んで不覚にもお腹を抱えて笑ってしまった。これは「四の巻」に入っていることを突き止めたので、そのうちに借りようと思っている。
コメント