ジャリおじさん

僕は日本の古い文化に傾倒しているものですが、現代美術が嫌いかというとそういうわけでなくて、時々木場の東京都現代美術館にも足を運びます。

少し前になりますが、NHKの新日曜美術館で、昨年末に現代美術館で開かれた大竹伸朗の回顧展の特集がありましたが、大竹伸朗の生み出す作品の圧倒的なパワーは、TVを通しても十分伝わってきました。

まだ、ばりばりの現役のアーティストなのに、あの現代美術館が3フロアを使った回顧展を開催すること自体、大竹伸朗のすごさが分かりますが、彼が次々と廃材から生み出す作品群は、我々の記憶のどこかを揺さぶる強いメッセージを持っています。彼は間違いなく、この時代の日本最高のアーティストの一人だと思います。

全く残念なことにその展覧会は行けなかったのですが、現代美術館のポッドキャストを久しぶりにチェックしてみたところ、過去の大竹伸朗特集の番組が残っていたので、彼へのインタビューを通して、彼の方法論や彼の尊敬するデビッド・ホックニーとのかかわり等、興味深い話を聞くことが出来ました。

その中で彼が最初に手がけた絵本「ジャリおじさん」の話が出てきたので、さっそく図書館で借りてみました。ジャリおじさんは彼の知り合いのフランス人の気の良い評論家がモデルで、その人は鼻の頭からひげが出ているのだそうですけど、燕尾服、蝶ネクタイ、こうもり傘にとぼけた風貌は子供が親しみを覚えるのに十分なキャラクターです。

大竹伸朗はこの絵本で、「何も起こらない物語」を作ろうとしたのだと言います。確かに物語はジャリおじさんが海のほとりから歩き始めてまた海にたどりつくというだけのものです。でも、そのふたつの海の間に広がる世界には、彼が日々生み出し続けているあの様々なオブジェがごちゃまぜとなった作品群に共通する奇妙な美しさが充満しています。

芸術の系統樹の中で大竹伸朗がどのように位置づけられているかは知りませんが、僕は大竹伸朗は日本の30年後の記憶を今リアルタイムに生み出しているのではないか、と思っています。

ところで、現代美術館のHPには大竹伸朗の展覧会カタログ(9,450円!)の予約に応じきれず刊行遅延となったお詫びが出てました。ちょっと高いけど、まだ手に入るなら僕も欲しいです。

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