冬の夢

久しぶりのスコット・フィッツジェラルド、もちろん村上春樹訳である。

この短編集には全ての作品の前に、村上春樹の解説がある。村上が尊敬し、愛してやまないフィッツジェラルドだが、その中でも「冬の夢」は、彼の代表作の長編「グレート・ギャツビー」の直前に書かれたもので、村上が特に好きな作品らしい。

読み始めて、すぐにこの作品は読んだことがある、という感覚がした。でも、読み進めるにつれ、この既視感は、まさに村上春樹が言うようにこの作品が「グレート・ギャツビー」の分身だからだと分かった。多分、フィッツジェラルドは画家が大作の前に周到に習作を描くように、この作品を書き上げたのだろう。

フィッツジェラルドはアメリカの中産階級の夢と絶望、若さと老い、希望と失意を描いた作家だ。村上春樹は僕よりもかなり上の世代だが、それゆえアメリカの絶頂の時代にアメリカと同化するように青春を過ごした。村上はフィッツジェラルドから、小説技術以上に、栄光と失意を学んだのだ。

ところで、この本は装丁がすばらしい。カバーページの硬すぎず柔らかすぎない材質、クリームイエローのカバーに和田誠のイラスト、片手で軽く持ち歩ける大きさと、見事に洗練されている。このあたりにも村上春樹のこだわりが表れている。

装丁の良い本の読後感は、ことさらに良いものだ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です