サンデルの政治哲学

1月 21

「白熱教室」や「これから正義の話をしよう」で、ちょっとしたブームになっているサンデル。政治哲学がはやりものになっている状況が面白くて、今回はネットで購入した。

著者の小林正弥は几帳面な人だと思う。サンデルの歩みを極めて正確に、まるでトレースするような感覚で、解説してくれる。前半は有名なサンデルによるロールズの批判が中心だが、この部分は哲学的なロジックの話だからあまり面白くないし、別に読んで為になる話でもないと思う。ただ、著者がこの面白くもない論理の話と複雑に絡み合った政治哲学の用語を、とても丁寧に分かりやすく解説しているのは好感が持てた。

後半は立場を変えたロールズへの再批判から始まる。サンデルが政治哲学というものを、個人の権利を中心とするリベラリズムへの批判を通して、功利主義的な観点から再構成しようとしていることは、基本的には正しい方向だと思う。サンデルの立場はコミュニタリアリズムの一種で、合意を得ることが難しい「善」を棚上げした「正義」ではなく、「善」を前提とした「正義」を説くのは、アリストテレス以来の誠に正しい行き方だと思うし、皆が合意できるような共和的枠組みを志向するのは理念として決して間違っていない。

ただ、そのような理念的な試みが、極度にグローバル化した経済をどのように位置づけ、どのように変えることができるか、という現実的なレベルの話になると、今のところまったく展望がない。テロと貧困が市場原理主義と呼ばれるリバタリアリズムからのみ生じているのなら話は簡単だが、現実はそれほど簡単なものではない。コミュニタリアリズムがリバタリアリズムを批判したところで目の前の問題は何一つ解決しないのだ。

残念なことに日本の共和主義的な流れは、政治哲学に真正面から取り組んだ結果としてではなく、古いイデオロギーの残骸としてあるに過ぎない。鳩山前首相の残した一連の奇妙な友愛言説が、それがコミュニタリアリズムと程遠い何か、イデオロギーと個人的な欲望の変節した何か、であることを雄弁に物語っている。

道ははるかだとはいえ、サンデルは真摯に共和主義的な解決を追求している。彼の「白熱教室」に代表される問題解決のプラクティスが、全てが空虚に響く日本の言語空間を揺さぶる力を秘めていることは歓迎すべきことだろう。

読書,政治

Posted by artjapan