前方後円墳の世界

歴史

広瀬和雄の「前方後円墳の世界」 岩波新書

久しぶりに古代史関係の本、岩波新書で今年8月に刊行されたものだから、最近の考古学的知見が得られるのではないかと期待したのだが・・・。

例によって、年代論に根本的な問題がある。古墳時代が(卑弥呼の時代に重なる)3世紀中頃から始まるという前提で全てが書かれているのだが、その根拠は歴博の一連の研究に基づくものだ。既に多くの批判がなされているが、歴博の研究に用いられた年代年輪法も放射性炭素年代測定法もデータベース等のエビデンスが公表されておらず、邪馬台国畿内説を破綻させないためのただの偽装工作である。前方後円墳の先駆けである箸墓古墳は、どうみたって4世紀のものだ。

それから未だに(中国から一面も見つからない)三角縁神獣鏡が中国鏡であるという、いまや邪馬台国近畿論者でさえ疑問視している仮説をあたかも確定した学説のように提示しているのは、ちょっと失笑ものである。

後半では、当然のように九州に出自があると記紀に記された応神王朝=河内政権論への批判がなされる。大和王権が九州から来たことは歴史の事実であってはならないということである。問題は著者がその根拠を、河内政権とそれ以前の政権で古墳の形状に大きな変化がないことに求めることである。

あたりまえだが、この論理が成立するためには、王朝はそれぞれのアイデンティティとして独自の形状の古墳を持つという一般的な法則が成立しなくてはならない。だが、それは著者の観念的な想定であり、何ら証明された命題ではない。

というふうに、ちょっと古代史をかじった人なら、いくつもツッコミを入れられる内容である。そのような基本的な問題はあるにせよ、(これが日本の考古学の現状なのだから仕方がない)、全国の主だった古墳を要領よく解説しているのは新書としては良いと思う。ただ、一般向けの著作であるにもかかわらず、専門用語に解説がなく、やたらと難しい表現をつかうのはやめたほうがよいと思う。

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