イギリス型<豊かさ>の真実

林信吾の「イギリス型<豊かさ>の真実」 講談社現代新書

先日のイギリスの選挙で2大政党制のゆらぎが話題となっているが、この本はイギリスの福祉政策、特に医療制度の現状を扱ったものだ。米国の自由主義的な医療政策と対照的にイギリスでは、国民健康保険NHSにより基本的に医療は無料である。

イギリスは、官僚的であるとか、常に待たされるとか、医師や看護関係者が酷使されるとか、色々な批判があるこの、NHSというシステムを守り続けてきた。林信吾はそのような福祉国家としてのイギリスの実情、光と影を追う。

そもそも日本と英国では社会システムが異なるため、単純な比較はあまり意味がない。つまるところ、限られた国家予算の中でセーフティネットとしてどこまで国が面倒をみるか、そしてそれを国民が共通理解として受け入れるかという問題に帰着するのだ。

日本の問題ははっきりしている。日本の数十分の一の賃金で働く労働者で、地球が溢れかえっていることだ。グローバル化した世界に対抗して必死で挑戦するものだけが生き残ることができる現実を受け入れず、国有化やバラマキに精を出す国に待っているのは、ギリシャのような破綻である。要するに、民主党の社会主義的政策の道先には、ギリシャが「Welcome to the Club」というプラカードを掲げて待っているのだ。

ところがである、歯止めをかけるべき自民党がまたそれに輪をかけた愚策を打ち出した。大前研一がニュースの視点というコラムで、その問題点を分かりやすく指摘していたので、ちょっと長くなるが最後に引用したい。

「自民党は20日、夏の参院選公約で「新卒者の完全雇用」を目標に掲げる方針を固めました。企業に1人あたり年間100万円の助成金を支給する 「トライアル雇用制度」を創設、企業に積極的な採用を促すとのことです。こんな公約を掲げる自民党の神経を疑いたくなります。それほど、この公約は最悪レベルのポリシーだと私は思います。例えば厚生労働省の報告では、現在、大学新卒者で就職を希望する人は約40万人おり、うち実際に就職する人は32万人程度と言われています。

なぜ全ての就職を希望する大学新卒者が就職できないのかと言うと、端的に言えば「就職できるほどの能力がない」からです。実際、どの会社を受けても落とされる人はいるものです。誤解を恐れずに極端な言い方をすると、特徴が薄くて、仕事をすることに対する気力や迫力、あるいは願望が全く感じられないような若者です。

そういう人たちの雇用に対して助成金として100万円払うというのなら、もっと直接的に「生活保護」として支払う方が良いとさえ私は思います。それでもなければ、自衛隊で地獄の特訓でも受けてもらって、その人たち自身の変化を促すべきです。

そもそも「完全雇用」という考え方そのものが「悪」だと私は思っています。世の中にものすごく能力の高い人ばかりが溢れかえっているなら分かりますが、そうでない限りは現実的に「完全雇用」は有り得ません。企業は慈善活動ではないのですから、企業側に求める人材像があるのは当然のことです。

完全雇用を政治の公約にするなど、自由主義国家の政策とは言えません。信じられないくらい「社会主義的」だと思います。かつ、過去の歴史を振り返って見てもこうした政策が上手く機能した例を私は知りません。過去の歴史においては、あるブームが来たタイミングで一時的に人手が足りない状況になり、完全雇用が実現されたということもあったでしょうが、それを政治的な目的にすることは間違いです。

同じ100万円というお金を使うなら、むしろ「どこに出しても恥ずかしくない人材を育成する教育制度の立て直し」のために使うべきだと思います。採用が決まらない人の雇用に対して100万円の助成金を払うというのは、例えるならば、文科省が作り出した不良品を買ってくれたら100万円のインセンティブを支払うというのと同義で、全く意味がない愚策だと言わざるを得ません。」

日本型にしろイギリス型にしろ、継続的な<豊かさ>というものは決して社会主義からは生まれない。それは歴史が証明している。イギリスでは2大政党制にほころびが見えはじめたが、日本では「2大政党」と呼ぶにふさわしい政党さえないのが現実なのだ。

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