オオクニヌシ

梅原猛の「オオクニヌシ」 文藝春秋

最近、仲間内で神話の話で盛り上がったことがあった。ちょうど芸術新潮10月号に梅原猛が編集する古代出雲王朝の特集があり、梅原猛が出雲各地を訪れて解説をしているのだが、梅原節はもとより写真が素晴らしい。驚くべきことは梅原猛の元気さである。もう85歳近い高齢なのに元気に歩き回って、衰えぬ好奇心で出雲の事物に関する考察を行っている。

そこで昔読んだ梅原の戯曲「オオクニヌシ」がまた読みたくなり、赤レンガ図書館で探して見たのだが見つからない。全集があるような日本の著名な文学者はいずれも特定の場所が与えられているのだが、意外なことに梅原猛にはそれがないのである。結局司書の人に聞いてみたら、公開書庫に置いてあった。借りた本はどうみても人が読んだ形跡がほとんどない。

梅原猛は「隠された十字架」のような著名な本を除き、案外読まれてはいないようである。

オオクニヌシは猿之助がスーパー歌舞伎にしたが、ヤマトタケル程は受けなかったようである。確かにヤマトタケルの方が演劇としては面白いだろうが、僕はオオクニヌシの不思議な物語に惹かれる。梅原はオオクニヌシを、大和一どじで間抜けなのになぜか関わる女性達全てに助けられ、殺されても蘇り、ついには大和の支配者に成り上がる天使のようにやさしい艶福家として描いている。

なぜ大和の支配者なのか?と思うかもしれないが、当時の梅原は出雲神話は大和で起こったことが出雲に仮託されたという説を唱えていたので、オオクニヌシを出雲ではなく、大和の支配者として描いたのである。梅原は今回、数十年の時を経て芸術新潮にて自説を撤回したのだが、「オオクニヌシ」は文学なので、史実に正確である必要はない。オオクニヌシは梅原の著作の中で傑作とは言えないが、僕は梅原による天性の夢想家オオクニヌシの冒険が好きなのである。

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