アマテラスの誕生

溝口睦子の「アマテラスの誕生」岩波新書

しばらく所用で実家に帰っていたので、ブログの更新は休止していたが、本は読んでいた。

例によって古代史ものである。アマテラスは神話上最上位の太陽神ということになっているが、7世紀頃まではその最上位神の位置をタカミムスヒが占めていたことを論じたもの。たいていの神話論では、アマテラス対スサノオ、という対立関係での議論が一般的なのだが、この本の良いところは議論を外来のタカミムスヒ対土着のアマテラスという対立関係に絞ったことである。

4世紀頃に高句麗を初めとする北ユーラシアで信仰されたのが、天と太陽と三位一体の関係を有する神の概念であり、これは高句麗に敗戦した大王家により当時の最先端思想として5世紀初頭、日本に輸入され、タカミムスヒという神として神話に取り入れられた。一方、アマテラスはスサノオと共に土着の神であり、多神教的な性格の神であったが、7世紀に天武の意思により一神教的な性格を付与され、支配層の再編のために最上位神としてタカミムスヒに取って代わることとなった・・・。

記紀に於ける天孫降臨の際に、降臨するニニギに命令を行うのがアマテラスではなくタカミムスヒであるという奇妙な事実は良く知られているが、その背景をこの本は良く説明していると思う。一方、なぜ天武はタカミムスヒをアマテラスに取り替えなければならなかったか、については溝口の説明ではまだ不十分である感じがする。いずれにしろ議論は良く整理されており、古代史の解説書として上質なものだと思う。

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