「かわいい」論

四方田犬彦の「かわいい」論(ちくま新書)

かなり前に読んだこの人の「漫画原論」がとても面白かったので、借りてみました。僕は大塚英志のオタクに関する言説も好きなのですが、四方田犬彦は「かわいい」を大塚のような少女へのフェッティッシュな指向、ある種の精鋭化された領域としてではなく、文化としてどこまで位置づけられるかという観点から分析を行います。

どちらかといえば比較文化的な試みなのですが、首都圏と地方の大学の学生に「かわいい」に関する同じ質問を投げかけてその結果を比較検討したり、アウトサイダー・アートのヘンリー・ダーガーの絵とセーラームーンとの共通点を考察したりと、細部の方法論、分析の切り口が鮮やかです。

最後に「かわいい」文化の未来を語るところで、ナチズムを持ち出して暗い予感と言えるような結論を用意していたところも周到で、最後まで興味深く読むことが出来ました。

ロラン・バルトの参照が豊富で的確なことも、さすがです。例えば「神話」という言葉をレヴィ=ストロースとロラン・バルトが異なった意味合いで用いていることを、さらっと書いているところなんかの手並みが良い。

最後にこの人の写真が出ているのですが、ひげ面なのにプリクラで眼に星を入れたあたりがちょっとクールというか、おちゃめな演出でした。

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