乱世を生きる

読書

橋本治の「乱世を生きる 市場原理は嘘かもしれない」 集英社新書

管首相の経済ブレーンということで注目を浴びている小野善康の本と、橋本治が市場原理を語るという本を借りてきた。小野善康の本はかなり数式多用でテクニカルな本だったので、さすがに読むのを断念してしまった。この人、最近TVに出ているが、良いバラマキなら経済が回復するという、経済学以前に言うことがかなり変なので、本を読むこと自体、時間の無駄だと思ったこともある。

橋本治の本は、純粋に「和の」人である彼が市場というものをどう解説するかという興味で借りたものだ。僕は市場に原理という言葉をつけて否定する人たちをあまり信用していないのだが、果たして橋本治はどうなのか?

例によって橋本治は経済を通常の言葉で語らない。彼の子供時代の経験から掘り起こし、徹底的に自分の視野のみで語っていく。橋本治とは、何に対しても「他者」として存在しうる絶対の話法を有した人間だが、この本において彼が演じるのは、グローバルな経済における絶対的な他者である。たしかに橋本自身はそのような存在だし、手書きの原稿を片手にグローバルな経済の枠外でも生きていける稀有な人間だろう。

だが、普通の人間はそうではない。だから彼の言説は面白いが他の人の生き方に直接参考になるような性質のものではない。だけどそれゆえに、彼の知見は鋭い。例えば、経済というものはその本質が循環であり、利潤はその一部に過ぎないこと。本来経済とは国家と独立して成立しうるものだが、日本においてはそれが国家の政策そのものであること。そして経済は常に新しいフロンティアを求めてきたが、現在の問題はもはやフロンティアがどこにも見つからないこと・・・。

それじゃあ、日本人は何をすれば良いのか、という問題が最後に来るのだが、これに橋本治が答えるわけではない。なぜって彼は永遠の他者であり、決して利害関係者になることがないからだ。だから論理をさまざまに反転させ、言いたいことを言って橋本は去っていく。「後はよろしく」と。

「明日の暮らしをよくしよう」というような実際的な思考を持っている人には、橋本治の本をお勧めできないことだけは確かである。

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