ミットフォード日本日記 

「ミットフォード日本日記 英国貴族の見た明治」(講談社学術文庫)

リーズデイル卿ことミットフォードは、幕末の維新の真っ只中に英国の外交官として活躍した人です。彼は約40年ぶりに、当時の英国国王エドワード7世の甥に当たるコンノート殿下の主席随行員として再来日し、各地で日本人の盛大な歓迎を受けることになります。

この日記はその時の様子を彼自身の回想と共に綴ったもので、幕末から日清、日露戦争を経て列強の一員に上り詰めようとする日本の変貌を伝える貴重な資料というのが、一般的な評価でしょう。

幕末時代のミットフォードは幕末の著名な志士達と個人的な交流がありましたし、一方では一度ならず浪人に命を狙われています。しかし生きて彼の前に姿を現した志士は伊藤博文や井上馨など、数えるほどで、他の志士たちは皆、維新の動乱の中で命を落としています。

ミットフォードに生きて再会がかなった幕末の英雄達は皆、日本が変わったことを誇らしげに告げ、もちろんミットフォードは深く同意します。でもこの日記で彼が吐露するのは、英国他の列強にならって日本が西洋風に変わることへの驚きではありません。そうではなくて、彼は、営々と受け継がれてきた日本の古い文化が、少なくともその時点ではまだ生きていることを確認して、安堵するのです。

ひとつには彼が伝統の価値を世界の誰よりも分っている英国の貴族である、ということが大きいでしょう。この日記は読まれることを前提とした外交官の日記であるため、あまりに親日的な内容であるとされています。しかし僕は彼が日本をひとつの文明、全く異なった歴史ある文明として考えていたからこそ、その価値を本当に認めていたのだと思います。

この本には日本の伝統というものに対する深い共感と、それが失われることへの強い不安が満ちています。この時期に日本を訪れた英明な外国人の多くが共有した、「失われつつある価値への哀悼」が、この日記の本当の主題なのです。

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