「1万3000年にわたる人類史の謎」と副題されたジャレド・ダイアモンドによる表題の本、上下巻ですが、予定通りGW中に読み終わりました。
ダイアモンドはこの大作を、彼のニューギニア人の友人の素朴な疑問、「白人は多くの物を発展させてニューギニアに持ち込んだが、ニューギニア人が作り出したものはほとんどない、それはなぜか」に答えるために書いたと言います。
彼はそれを、大陸によって発展のスピードが異なった理由は何かという、より一般的な問題に定式化して、その理由を考察していきます。このような身近で基本的な問題って、現在の細分化され、専門化した科学ではむしろ、簡単に解決することができないのですね。そこでダイアモンドは地理学、植物学、歴史学等、様々な分野の知見を総合的に使うことにより、この問題に答えようとします。
そしてその問題設定の根底にあったのが、彼自身の疑問「ニューギニア人は白人よりも有能かもしれない」ということだったのです。彼は、ニューギニア人が彼らの社会で発揮する能力(例えば様々な植物を科学としての植物学よりはるかに深いレベルで分類し、それらを使いこなす)が、白人の社会で白人が発揮する能力と基本的になんら変わらないという認識を明らかにします。さらに、「白人の安定的な社会よりニューギニアの過酷な社会では生存競争において、取捨選択がより有効に機能しているのではないか」という仮設を提示します。この仮説は必ずしも今回の著作の直接の命題ではないですが、文化人類学と進化論の伝統を受け継ぐ科学者として、ある種誠実な懐疑だと思います。
ダイアモンドは結論として、ヨーロッパ人がアジアやアフリカを植民地化できたのは、地理的環境と生態的環境の賜物であり、人種的優越性は何もなかったということを丁寧に論証します。つまり、白人は最初に存在した場所が良かったのであり、単に幸運だったということなのです。この論証の過程には、白人優位主義への深い嫌悪が見え隠れします。このあたりはお気に入りのレヴィ=ストロースの根底にある思想背景に類似するところがあり、共感しつつ読み進めることができました。
文章は大変分りやすく、アフリカで最も人を殺している動物はカバである、というような役に立たない?知識もあり読み物としても面白かったです。訳はこなれていましたが、ところどころ明らかに誤訳とみられるロジックがおかしい箇所(例えば上巻の234ページ)があったのが残念です。
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