珍しいことにマーケティングの本を読みました。きっかけはいつものように偶然です。
先日REDSの赤いのぼりがたなびく浦和の町をぶらついていたら無料講演会をやっており、「深層心理とマーケティング」という面白そうなタイトルだったので、これはめっけものだと思って聞くことにしました。ところが最初に出てきたのが、学習院の院長の波多野敬雄さん(元の国連大使)で、学習院は先生がよくて生徒の就職率が抜群だからぜひ優秀な学生に来てほしいのというのです。
最近は学習院も浦和まで来て宣伝する時代になったのかと、まあ時代の流れを感じたところで、講師として学習院の教授の上田隆穂さんが登場、最近のマーケティング理論についての概説と学習院で民間と協調して進めているいくつかのマーケティングのプロジェクトについて語ってくれました。この人、なかなか話が上手で、門外漢の僕などでも最近のマーケティング理論の概略が分ったような気になりました。学習院の学生のゼミの様子などを織り交ぜて、大学の宣伝もしっかりしてましたけど。
でマーケティングなのですが、どうやら最近の理論は深層心理の活用に重きをおいているようです。そしてその理論が集約されているのが、ハーバード大学院名誉教授のジェラルド・ザルトマンが書いた「心脳マーケティング」という本らしいのです。マーケティングの本場はやっぱり米国なのですね。というわけで、例によって図書館予約システムで借りてみました。
マーケティングの本なので手ごわいかなと思っていましたが、そんなことはなくて読みやすかったです。最新の認知心理学や脳神経科学の成果を取り入れているため、様々な学問領域を総合した知見というようなものがところどころに出てきて、マーケティングの本というより総合的人間行動学って感じで興味深く読みました。
フロイトが明らかにしたとおり人間の行動の大部分は意識されない思考や感情に支配されており、直接的なインタビューやリサーチではユーザの根源的な動機に到達することは不可能です。そのため、メタファーの活用や心の働きのモデル化などの認知心理学の成果を取り入れることにより、ユーザの無意識領域に働きかける新しいマーケティング手法が生み出された、ということです。
心理学には昔から興味があったので、米国で心理学の行き過ぎた適用が「人の心を操作する」という批判から一時、衰退の傾向にあったところまでは知っていました、しかしその後、どうやら脳の活性化する部位を測定可能とした最新の脳神経科学の成果との融合により「無意識」が復権してきたということのようですね。
また最近の研究により、人間の記憶が取り出すたびに再構成される極めて可塑的な現象であることが分ってきた、ということも大きな影響を与えていますね。そういえば新聞の特集で見た記事ですが、日本人で世界的に有名な二人組のパントマイムのチームがいるのですが、彼らの舞台の後に観客から、「あの台詞はどうやって考えついたの?」とか「昨日あった冷蔵庫は今日はなかったね。」とか言われるそうです。彼らの舞台に言葉も道具も登場しないのに。
まさに記憶は物語です。多分これからのマーケティングとは、物語を作り出す作家のような営みになっていくのでしょう。
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