フェルマーの最終定理

藤原正彦の数学者は美の追求者である、という議論に触発されて読みました。サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」です。

3世紀の間いかなる数学者の挑戦もはねつけてきたフェルマーの最終定理が、ついにアンドリュー・ワイルズによって証明されるまでの挑戦の歴史を描いたサイモン・シンのこの本は、日本では2000年に出版されて非常な評判をとったのですが、その時はフェルマーの最終定理を証明するということの意義が分からなかったので、特に読みたいと思わなかったのです。

文庫本で500ページ弱とかなりの長編ですが、今回一気に読んでしまいました。抜群に面白かったです。こんなに面白いならもっと早く読めばよかった。

フェルマーの最終定理って厳密な論理の塊である数論の超難問だったわけですが、この本では、その世紀の難題を、僕のような数学的能力に欠けた人でも理解できるようにピュタゴラスの定理から初めて、ユークリッド、ガウス、オイラー、ゲーデル等、数学の天才たちの関わりを描いていきます。

サイモン・シンは本当は1行さえ理解することが困難な証明のロジックを、数学的パズルを多用した解説と魅力的なエピソードの挿入により、一般の人にでも最低限の意義が理解できるようにしています。その力量は驚嘆すべきものです。

例えば、数論から生まれた応用として公開鍵による暗号方式があるのですが、これは一般の人にとって理解するのが少し難しいところがあります。ところが、サイモン・シンは数論の歴史の中で巧妙に解説を加えることにより、全く平易な説明に落とし込むことに成功しています。

フェルマーの最終定理を証明するために最終的な武器となるのが、二人の日本人によるいわゆる谷山=志村予想だったのですが、この谷山=志村予想がフェルマーの最終定理を解くという以上に数学者にとって新しい領域を切り開いた極めて意義ある業績であったことを、恥ずかしながら僕は知りませんでした。特に31歳で自らの命を絶ってしまった谷山豊という天才のエピソードは、特に僕の胸をうつものでした。

ここにはノン・フィクションにはまれなほどの豊かな物語があります。これはむしろフェルマーの最終定理にまつわる天才たちの壮大なオペラだと言った方が正確かもしれません。

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