<不安な時代>の精神病理

読書

香山リカはマスコミなんかによく出てくるが、一応臨床の精神科医だ。でもこの本の内容は臨床の立場から日本人の震災後の心理を分析したというより、震災を通して日本の課題を広い立場から考えてみた、というような大まかで散文的な内容である。また、この人のユニークな議論というものはほとんどなくて、様々な人の分析が参照される。俎上に上がるのは、日本社会の抱える、高齢化、うつ、モンスター化など、そこから日本人の心理的課題を論じる。

日本人の心理を語るには日本社会の衰退を語ることになり、当然経済の話が出てくるのだが、池田信夫氏と金子勝氏のような理論面で正反対の立場の経済学者をなにごともなく肯定的に引用しているのが大雑把である。いつも思うのだが、物書きは経済学の初歩だけは学んでおいたほうが良い。

面白かったのは、米国における心理学の衰退の理由とそれに代わって保険会社、製薬会社が一体となって進めたSSRIといううつ病治療薬の話である。要は精神分析は医者個人のなりわいに留まるが、薬は関連会社における巨大なビジネスになるということで、なるほどと思った。

不安な時代の精神病理という題名でも分かる通り、著者は著者自身の不安を隠さない。臨床医が不安でどうするのだ、と言われかねない立ち位置である。そしてこの本はその不安の時代の中で、ポストモダン的な希望、つまり震災が「大きな物語」をもたらす、というあまりぱっとしない結論で終わる。

専門的には多分あまりほめられるたぐいの本ではないと思うが、僕はこの人のアマチュア的目線にほっとするものを感じたのも事実である。

 

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