生首に聞いてみろ

法月綸太郎の「生首に聞いてみろ」(角川書店)

著名な彫刻家の娘が殺され、警視正の父を持つ作家の法月綸太郎が事件解決に乗り出すというお話です。探偵という職業が物語りの中でリアリティーを持ちえた横溝正史の時代とは異なり、今の時代に一般人が事件解決を行うなんてことはありえないのですが、それをなんとか可能としてるのが、警察関係者が身内であるという設定です。

このパターンも法月の専売特許ではなくて、いくつかの作家が使っているのですが、法月の場合は語りがうまいのでしょう、あまり破綻がないように思います。この小説、ミステリーとしての出来もさることながら、芸術家の実情、美術プロモーターのかかわりなどが、とてもよく描写されていていました。

また事件の真相には彫刻のテーマが深く関わっており、彫刻技法に関する薀蓄が巧妙に散りばめられているのが面白かったです。特に彫刻における眼の表現、人体から直接型取りしたジョージ・シーガルの技法等が事件のプロットに組み込まれており、芸術を題材としたエンタテイメントとして、一級の作品に仕上がっていると感じました。

小説家って作品のリアリティーのために題材のための膨大な調査を行うのですが、法月の場合は芸術に深い関心と知識がまずあって、そこで既にミステリーのプロットが決定されている気がします。以前読んだ法月の「頼子のために」はあまり好きになれなかったのですが、この「生首」は僕も文句なく楽しめました。

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