綾辻行人の「水車館の殺人」 講談社文庫
実は澁澤龍彦が評価した小栗虫太郎の代表作である「黒死館殺人事件」を少し前に読み始めたのだけど、そのあまりのぺダントリーに辟易して読むのを中断してしまった。日本にあるとは思えない古城のような洋館で次々に殺人が起こるのだけど、交わされる会話があまりに衒学的で現実離れしていて疲れてしまったのだ。
だけど、古い洋館で次々に起こる殺人というような古典的かつ定型的な推理小説のスタイルそのものは好きなのだ。そのような古典的なスタイルの推理小説で現代において評判が高い作家が、綾辻行人である。中でも「~館」シリーズは洋館を題材にしているので、1冊借りることにした。それが「水車館の殺人」である。
3連水車がある洋館という変わった設定だけど、福岡の朝倉のそれをから着想を得たものだ。朝倉のものは揚水に実際に使われているのだけど、これは田舎に引きこもった億万長者が水の流れを変えて洋館の動力源として使っているという設定。洋館、仮面の男、閉じ込められた美少女、執事、公開を禁じられた謎の絵など、出演者と舞台装置は文句なく楽しい。殺人のプロットは複雑で全体像は残念ながら僕の予想を超えていたけど、たまの気晴らしには上質の作品だと感じた。
ノンフィクションの合間にまた推理小説が読みたくなったら、綾辻のこのシリーズからもう1冊借りて見ようと思う。
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