「黄泉の国」の古代学

この本は日本の古代の葬送の形式から、日本人の古来の死生観を探ろうとする試みです。この本を読むと、大和朝廷の覇権の確立と共に日本全国に拡散していった前方後円墳と同時代、船形の葬送形式が多く行われていたことが分ります。日本においても「天かける船」は海の彼方に存在する「あの世」、「常世」への乗り物だった訳です。実はこのあたりの事実を全然知らなかったので、結構新鮮な驚きでした。(この本では、そのように偏った日本の考古学事情への批判も当然のようにあります)

壁画、埴輪、土偶等様々な発掘品が出てくるのですが、やっぱり興味をかき立てるのが、九州に多く存在する装飾古墳です。鮮やかに彩色された古墳内の壁画については、岡本太郎も梅原猛もアートとして魅せられたのですが、この本では古代人の死に対する考え方を表す事物として詳細に分析されます。

僕は有名な王塚古墳や実家の近くにある竹原古墳なんかは実際に見てます。王塚古墳は東博で実物大に復元され、3D映像化されたりしたのですが、やっぱり古代の呪術的な文様の迫力は現代アートでも表現できない「何か」なのです。

ところで、「おくりびと」がオスカーを取りましたが、受賞の前に見た一人としては何か嬉しいです。この映画は色々な見方が出来ると思うのですが、僕としては納棺師の主人公が上司である社長と食事する場面が結構好きです。社長が笑いを取るべく繰り返す「うまいんだな、困ったことに」というせりふに、例えば死を共食という根源から問い直したレヴィナスの哲学を見ることは可能でしょう。どこまで意図されていたかは別として、そのような小さなところでユダヤ人が多いといわれる選考委員に、洗練されたユーモアと感じさせた可能性は高いと思います。