この本は小林信彦と小林泰彦の対談で始まります。この二人は、乱歩が私財を投じて始めた推理小説専門雑誌「宝石」の編集の中心的役割を担うことになるのですが、その中の乱歩像が興味深い。というのも、二人が語る乱歩が、一般的に信じられているようなある種の天才奇人としての乱歩ではなく、日本に推理小説を広めようとする先駆者、企業家としての乱歩なのです。
乱歩は当時としてはとても長身(180cmを越えていた)で、大入道のような人だと言います。また、薄暗い書斎に一人ろうそくの明かりで、怪奇小説を書いていた、というのはメディアのでっち上げた逸話で、実際にはきさくで普通に接することの出来る人だったらしい。
僕は迂闊にも、この二人が兄弟であることを知らなかったので、この二人のざっくばらんなやりとりが編集者とその部下という関係としてはとても奇妙に感じました。ちなみに小林信彦は元祖おたく的作家かつ編集者として有名で、僕もいくつか著作を読んだことがあるのですが、弟の泰彦が兄の編集する雑誌のイラストを担当したことは、(世の中では有名なことらしいのだが)知らなかった。
後で調べたら康彦は「日本100低山」という本を出している低山の専門家?だということが判明しました。僕の趣味の世界の大先輩だったのです。
最後は乱歩を題材とした信彦の編集者当時の回顧録のような短編が添えられていて、それも面白かったです。乱歩は初期の作品だけなら天才作家として名を残したとされるのですが、僕は引退して時間に余裕でも出来たら、乱歩の初期の作品のみならず全巻読んで見たいなと思います。
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