20世紀ファッションの文化史

成実弘至の「20世紀ファッションの文化史」(河出書房新社)

僕はファッションに対する自分の信念とか嗜好というものは、ほとんど持っていません。機能性が要求される雨具などは、登山用品を使ってますが、着るものは出来る限りユニクロですませてしまうタイプの人間なのです。ですからこの本で取り上げられたファッション界の10人の内、知っていたのは4人(シャネル、ディオール、マリー・クアント、川久保玲)だけでした。

この本はファッションの歴史に偉大な足跡を残した10人を取り上げています。チャールズ・ワースとかポール・トワレとか歴史上の人物も描かれますが、面白くなるのは、シャネルからです。成実はファッションを社会的プロセスとして捉え、その移り変わる社会的意味を丹念に分析していきます。例えば女性の身体を拘束していたコルセットが、時代の変化と共により自由な服装に移行していくのですが、それが単なる社会的合理性や政治的変化からではなく、スポーツやアウトドアに向かうライフスタイルがもたらした女性の「欲望」であったことを明らかにします。

個人的にはファッションの世界の「言葉」が興味深かったです。例えば成実は、「モード」という言葉をパリに限定して用いていますが、これなんか、ファッションの世界ならではでしょう。「スザンヌ・ランラン」という女性のテニスに革命をもたらした、シャネルと同時代のテニス選手がいるのですが、成実は彼女を「シュザンヌ・ラングラン」と呼びます。普通、テニスの世界ではシュザンヌとは表記しないので、最初は分りませんでした。

9番目に出てくるのが、「コム・デ・ギャルソン」です。この章にはとても力が入っていて、成実の筆に迫力があります。成実が書きたかったのは川久保玲の物語だったのだということが、ここで分りました。彼女のアートと近接する感覚、常に現状を否定し挑戦し続ける挑発的なスタイル。黒で一斉を風靡したのに、過去を否定するように赤に変わっていく「コム・デ・ギャルソン」。この本はさすがに美しい装丁を持っており、黒のモノトーンの表紙に赤の背表紙となっているのですが、これが川久保へのオマージュであることは明らかです。

とにかくこの本は、僕とほとんど接点のないファッションという異質の世界を垣間見させてくれました。最近、いくつか刺激が足らない本が続いたので、大満足です。

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