津本陽の「本能寺の変はなぜ起こったか」(角川書店)
前回に引き続いて、「なぜ」を標榜する本を読みました。このような特定の問題が主題の本には、僕はどうしても点が辛くなります。要するにこのような問題定義型の本では、著者が明確な回答を提示しなければ、読者との約束を果たせないと思うからです。
で、この本なのですが、(僕は読んでませんが)かなりの評判をとった、同じ作者の「下天は夢か」をベースに書かれたもののようです。津本は、信長の生い立ちから始めて、その特異な人格、天才的な資質を浮き彫りにし、覇者たるべき生涯を記述していきます。このあたりは既に周知となった歴史的事実なので、ほとんど驚くような内容はありません。ただ、本能寺に至るまでの信長および家康、秀吉ら家臣、同盟勢力の動き、石山本願寺等の宗教勢力、朝廷、足利義昭の動向等を丁寧に追っており、実証的な説明が行われます。
そして本能寺の変を迎えることになるのですが、読者にとっての興味はやっぱり、この事件に黒幕はいたのか、いたとすれば誰なのか、という1点になりますよね。
津本は、これまで提議された様々な陰謀説を、ひとつひとつ検証していきます。朝廷、秀吉、家康、石山本願寺、ひいてはイエズス会など、黒幕として色々な名前が挙がって来たのですが、津本はそれらに反証の末、根拠のない説として全て葬り去ります。
つまり、津本の結論は、光秀の単独犯行説です。世の中には、事件によって最も得をする人物が黒幕だという、まことに安易な論理で全てを結論付ける人たちがいるのですが、津本は、明快な論理で、それらを一蹴します。
僕もたぶん津本が正しいと思います。この本に問題があるとすれば、結論ではなく、結論が退屈なほど常識的なことでしょう。「そうだったのか!」とか、「やっぱりね!」とか、そういう驚きがないので、正直「面白かった」ということにもならないのです。そういう意味では、この題材はやはり、「下天は夢か」で読むべきだったのかもしれません。
コメント
お久しぶりです。
「下天は夢か」はその昔に読みましたが、トリッキーではない、ノー
マルなストーリーだったと記憶しています。
それにしてもあれほど色々なことを成し遂げた信長は48歳でなくなって
います。西郷は49歳、岩倉具視は57歳、豊臣秀吉61歳、笠智衆が演じえら
い年寄りだと思っていた乃木希典も63歳で亡くなっています。さすがに歴
史に名を残す人たちは、我々の何十倍もパワフルに生きてきたようです。
SKさん
SKさんのコメントが、なぜかまたスパムフィルタに掛かってました。一度訂正するとフィルタが学習するはずなのですが、このフィルタは賢くないだけでなく、学習能力にも疑問が・・・。
ところで、昔は実際に現在より時間の流れが遅かったという学説があるそうです。これなら昔の人が今の人より、沢山のことを成し遂げたことが説明できます。
すいません。これはちょっとトンデモ系の学説ですね。