夏目漱石を江戸から読む

小谷野敦の「夏目漱石を江戸から読む」(中公新書)

この本は比較文学的な手法を駆使して、漱石に江戸文学の系統を見るという内容でした。でもこの本で面白いのは、江戸の系譜の話ではなく、小谷野が漱石の文学の奇妙さ、ある種不可解な感覚が何に由来するのかを解説していることです。

例えば「坊ちゃん」のマドンナ。小谷野はマドンナが、坊ちゃんの無垢を讃えるこの物語の絶対的他者であることを指摘します。そしてこれ以降、「虞美人草」、「三四郎」と、漱石はかなり女嫌いと見えるような様相を呈していきます。そしてついには「こころ」で同性愛的な傾向を示すに至ります。でも小谷野はそれが、いわゆる同性愛=ホモセクシャルではなくて、男が女性を排除して成立する世界観=ホモソーシャルなものと規定します。

小谷野の議論は歴史的な系譜論とともに、人間関係の構造的な分析に目配りが利いていて、謎解き的な面白さに満ちています。他の漱石論の引用も的確です。でも僕としてはなんとなく物足りない感じもしました。

それは何だろうと考えてみると、やっぱり漱石って今読んでも無類に面白い作家なのです。でも結局小谷野は、なぜ漱石がそんなに面白いのか、という肝心な問いに明確に答えてない。まあそんなことは彼の主題ではないということでしょうが、全ての漱石論はやはり第一に、この「なぜ」に答えなくてはならないと思うのです。

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