古川愛哲の「江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた」(講談社+α文庫)
題名につられて借りました。いったい大正時代に歴史を書き換えるような陰謀があったのか?
ところがです。この本で古川愛哲が主張していることは、ちゃんばら活動映画が大正時代に生まれたが、その際江戸時代の正確な知識がない人たちが脚本を書いたため、悪代官や悪家老が登場する間違った江戸が描かれてしまった。だからけしからん。歴史はねじ曲げられたのだ。
この人はもともと放送作家出身の作家らしいのですが、まずそもそも「ちゃんばら」は娯楽であり、歴史に正確に依拠しなければならない性格のものではない、というあたりまえのことが分っていない。もしちゃんばらが歴史を歪曲したことがけしからんのなら、日本の古典である能も歌舞伎も抽象化、誇張や時制の混乱に溢れているから、もっとけしからんことになります。
最初にその変な議論があり、その後は「実は江戸の自体はこうだったのだ」という内容の記述が続くのですが、はっきりいって、そのほとんど全てが明らかに受け売りで、古川愛哲自身の発見とか知見があるわけではない。
まあ良くある江戸物の十番せんじくらいの本で、杉浦日向子の足元にも及ばない内容でした。内容自体は単によくある解説本だと思えばよいのですが、この題名だけはいただけない。この題名「江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた」を冠するなら、大正時代に政治的な操作により、江戸の歴史が歪曲され、重要な真実が闇に葬られた!という内容でなければならない。そうでなければ、ほとんど詐欺だと思います。
僕が「講談社+α文庫」を手に取ることは、二度とないでしょうね。
コメント