江戸百夢

歴史

最近読んだ本:
・「江戸百夢」/田中優子(朝日新聞社)

僕はずっと前に買った田中優子の「江戸の想像力」で日本の近世のネットワークと複層的なメディアが作り上げた魅力的な世界を知ることになりました。その本の最後にはこのような言葉があります。

こうして、対立的なものを複眼でとらえること、短い期間の問題を長い期間の問題を同時に見ること、地球的な規模でそれらの問題を照らし合わせてみること、そしてヨーロッパと日本を単線で結ぶのではなく、中国、中国文化圏、東南アジア、あるいは仏教文化圏さえもその視野に入れて、実際の錯綜した文化的・技術的・商業的関係を追ってみること。最低限これらのことをやらなくては、共時的な精神史は見えてこない。」

その後も田中優子は、江戸のネットワーク「連」や「粋」それに「性」の研究を通して、ちゃくちゃくと、その言葉を実践してきたように思います。

「江戸百夢」はそのような活動、著作の中でこれまでに田中優子が幾度となく語ってきた「金唐革」、「広重」、「若冲」、「応挙」、「光悦」、「枕絵」などを全てカラーの図版で掲載、解説したものです。その中で、光悦にコンテンポラリー・アートを、応挙にバーチャル・リアリティを、そして若冲にはバロックを、見出していくという趣向なのですが、それよりもなによりも、豊富かつ美しい図版こそがこの本の魅力です。

広重は、「名所江戸百景」から2点掲載されており、田中優子はその構図の中に江戸の時間推移が巧妙に盛り込まれていることを指摘していますが、そんな分析より彼女がぽつりと言う次の言葉に、僕は深く共感するものです。

「かつての東京は、これほど心が高められ、ほっとする場所だったのかと、取り返しのつかない今が悲しくさえなる。」

そういえば、先日久しぶりに六本木ヒルズ53Fの森美術館に行って「日本美術が笑う」なる展覧会を見てきました。縄文から現代まで笑いをキーワードにした出展だったのですが、宗達、若冲や木喰、円空など、近世までは展示物の質、量、企画性としても結構満足いくものでした。一方近代から現代は、ほとんど見るべきものがなく、特に現代のイギリスのビデオアートなど、キュレータの見識を疑うような、先行する現実から取り残された残骸でしかない陳腐な作品でした。

しかも、関係のない展望台とセットで1500円はいかにも高い。前半だけで800円だったら、すばらしい展覧会だったのに。

ここが貧乏人根性でしょうか、もったいない気がして、一応展望台をぐるっと回ってきましたが、そこからは例の国立新美術館が真下に見えました。思えば、後半の目玉は現代日本の新しい空虚の象徴=究極の箱物としての国立新美術館だったのか。

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