タオイズムの風

最近読んだ本:
①タオイズムの風/福永光司(人文書院)
②緊急取材・立花隆、「旧石器ねつ造」事件を追う/立花隆(朝日新聞社)
③茶道と十字架/増淵 宗一(角川書店)
④ポストモダニズムの幻想/テリー・イーグルトン(大月書店)

文化って、日本に限らず近隣の国・地域の影響を抜きにしては語れないものだと思います。①は道教が日本の文化に与えた影響について書かれたものです。このような主題の本では、「日本の文字は全て○○で説明できる」式の、資料的裏付けの乏しい一方的な思い込み本が多いのですが、本書は資料的根拠がしっかりしており、説得力があります。

本書では、儒教を中国北部地方の「馬の文化」、道教を南部地方の「船の文化」と位置づけ、道教が船の文化の枠内にある日本の風土へ根付いていく背景を説明して行きます。儒教を特徴付けるキ-ワードは、権威、直線、男性、論理であり、道教は対照的に、融和、曲線、女性、混沌、となります。最終的にはもちろん、仏教、儒教、道教は渾然一体となって日本の風土に根付いて行くわけですが、その過程で日本がいかに道教の影響を受けていたかが、豊富な実例と共に理路整然と明らかにされます。

古代史ファンの立場から面白かったのは、天武天皇が道教の積極的な推進者として分析されており、記紀に著された古代史最大の内戦である壬申の乱の記述を、福永光司自身の戦争体験(太平洋戦争で部隊の記録を取る立場だった)から、ほぼ記述どおりの戦いが起こったに違いないと推論していることです。

また、混沌の思索の中から答えが生まれるという考え方を有していた湯川秀樹を典型的なタオイスト(道教主義者)と分析していますが、道教に知悉しているか、否かに関わらず、天才の発想にそのような傾向があることは、別の形で指摘されてきたように思います。

③はキリシタンだったという説のある利休を中心に、キリスト教伝道師と茶道が出会い、お互いに影響を与えあう様を通して、茶道の文化的背景を考察した一種のエッセイです。異なる文化の出会いというのは、僕の最も好きなテーマなので、キリスト教と茶道の儀式あるいは作法の類似点など、ユニークな観点で面白く読みました。

稀代の革命家にして合理主義者だった信長がなぜ茶道を重視したか、というのは僕にはひとつの謎だったのですが、本書である程度答えが得られた気がします。

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