江戸の本は楽しい。ひとつには宵越しの金を持たない江戸人々の生き様が、ちょっぴり羨ましいからだろう。この本は落語に描かれた江戸を通して、その時代の人々の生活を垣間見るという趣向。病気の話、辻斬りの話、借金取りの話、火消しの話、医者の話などなど、八熊の脳天気な会話から実際の庶民の生活が浮かび上がる。
火事とともに江戸の人気は花見である。今でも花見の季節はどんちゃん騒ぎも少しは許容されることになっているが、江戸の花見はとにかく馬鹿をやって人をあっと言わせることにみんなが賭けていたらしい。その徹した馬鹿っぷりが新鮮だ。
蚊帳の話も面白い。当時の江戸は至る所に水路が張り巡らされたベニスにも劣らない水上都市だった。だから人々は常に虫や蚊と共に生きていた。口を開ければ蚊が何十匹も入ってくるというようなことは普通に起きていたのだ。だから人は蚊帳を釣らなければ到底寝られなかった。
現代に生まれ育った人間が江戸で生活することは、非常に難しいことだ。電気がなくてもアウトドアでエコな生活が簡単にできると思っている人たちがいるが、もし彼らが江戸にタイムスリップしたとしたら、自分がいかにエネルギーや社会インフラに依存してきたかを思い知ることになるだろう。
江戸は楽しく、脳天気だ。本当にエコで持続可能でもある。だが、それは現代人が想像もつかない異界でもあるのだ。
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