いまなぜ精神分析なのか

読書

香山リカの本で参照されていたエリザベート・ルディネスコの本。精神医療の専門家にとっての入門書レベルの本で、正直僕には理解が難しかった。

フロイトの理論と精神分析はいまや瀕死の状態にあると言っても良い。ひとつには香山リカが指摘していたように、医療のグローバル化がもたらした一般化やマニュアル化に適した薬学医療の隆盛の前に、精神医学がその存在価値を失ったことがある。だが事態はそんな簡単なものではなく、精神分析自体が観念化と権威化により様々な流派に分裂し、その意義を失ってきた歴史があるのだ。

ルディネスコの立場は、精神医学の存在価値をうつの時代に見つけるべく、様々な観点からの議論を行う。彼女は、精神医学をその歴史から振り返ることから初め、ラカンやダリダのみならず、様々な哲学的視野から再構成しようと試みる。

残念ながら、著者の取り組みはまるで、絶滅危惧種を前にした昆虫学者のような、はかない努力のように思える。著者が次から次に提示する専門的な議論を追うことは僕のような門外漢には難しい。しかし彼女のある種超人的な活躍にも関わらず、彼女の守ろうとする世界は、既にほぼ失われていることは分かる。

著者の議論の正当性や有効性に関わらず、失われたものへの追悼歌の匂いがすることだけは、本読みの確信を持っていえるのである。

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