飯沢耕太郎の『「女の子写真」の時代』 NTT出版
「女の子写真」とは女の子がモデルの写真ではない。1990年代頃にいっせいに登場した十代から二十代の女性写真家達の写真、そのムーブメントが「女の子写真」と呼ばれたのだ。
飯沢耕太郎は、時代をリードした長島有里枝、HIROMIXそして現在活躍中のやなぎみわ、蜷川実花など、個性的な女性写真家がそれぞれの作品世界を確立していった過程を追う。
・・・僕は以前、「女の子写真」を、戦場に向かう兵士が写真館で撮影する記念写真にたとえたことがある。いつ死に直面するかわからない兵士が、もし戦場で命を落としても、家族が自分のことを思い出すことができるようにと、生前の姿を残しておこうとする。若い彼女たちも、自分の生の輝きがそれほど長くは続かないことを予感している。だからこそ、女の子たちは大好きないまの自分や、友達や、身近な可愛いものにカメラを向けるのではないだろうか。・・・
飯沢耕太郎は、このように果敢に時代に立ち向かっていった女性写真家達を「戦士」に例える。何人かは時代の荒波を乗り越えて現在でも活躍しているが、消えてしまった写真家も多い。時代と闘いながら半径5mの世界を切り取り続けた戦士達の足跡が鮮烈である。
でも僕が最も興味を惹かれたのは、実はこの本で紹介された「女の子写真」成立以前の作品である。女の子の時代に先行したひとりの女性写真家、岡上淑子のフォト・コラージュ作品がそれである。彼女は日本のシュルレアリスムの紹介者のひとりである評論家の瀧口修造に見出されたらしいが、1950年代に、驚くほど先鋭的で個性的な作品世界を全く独自に構築している。
彼女の写真集は米国でも出版されたがほとんど入手が困難らしい。代表作「夢のしずく」を東京の全図書館から検索したところ、世田谷の上馬図書館に1冊あることを突き止めた。こんど、時間を作って上馬に行ってみようと思う。
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