連休中に一番楽しく読んだのは、ロラン・バルトの「神話作用」(現代思潮社)でした。前半はバルトの真骨頂の批評で、後半は神話に対する分析なのですが、やっぱり面白いのは前半部分です。
これを読んで実感するのは、僕は(というか人類は)未だにバルトを越える批評に出会っていないということです。この本は1950年代のフランスの事物に対する批評なので、批評の対象そのものが我々には良く分らない。それでもバルトの批評は、むやみに面白い。バルトの批評は以降の全ての批評家にほとんど支配的というような影響を与えたのですが、もはや批評を超えたメタ批評となってしまっている。
それにバルトが批評した対象について思い巡らすことが実に楽しい。例えば、当時のフランスのレスリングについての批評で、バルトはレスリングの物語機能について語ります。ここで比較の対象としてバルトが持ち出すのが、フランスで大変人気のある柔道(いうまでもなく世界一の柔道大国は日本ではなくフランスです)であることが興味深い。スポーツに潜む祝祭性、伝統、物語性をこれほど端的に表した評論を、僕はほかに知らない。およそスポーツの興行に関わる人は、すべからくこの短い評論を読むべきだと思う。
訳者は篠沢秀夫です。この人は僕が若い頃、TVのクイズ番組に回答者として出ていたのを見てましたが、いつも的外れの答えをしていたのを覚えています。著名なフランス文学研究者だったとは、当時は全然知りませんでした。
篠沢はバルトの批評から対象として日本人が知らないトピックを削除したと後書きで書いているのですが、バルトの批評はそれ自体で成立するメタ批評、つまりある種の芸術なのですから、そのような理由で削除して欲しくなかったです。
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