古代史の謎はどこまで解けたのか

僕には何とも魅力的なタイトルの本です。最初に旧石器発掘捏造事件への反省があり、それから日本の考古学の歴史が、ほとんど時代順に語られます。

僕が注目したのは、著者が方法論の欠如した日本の考古学への批判的な立場を保てるか、という点だったのですが、案の定そこが甘い。というか、日本の考古学の間違いの歴史をそのまま漫然と並べた、という印象です。

考古学というものは日々新しい発見があるわけで、常に最新の成果をもって過去の仮説を修正し続けなくてはならない。考古学者はその意味で、特に謙虚でなければならないのです。そして何より重要なのは、コモンセンス、つまりより少ない仮設、より簡潔な理論を求めなければならない。

端的な例で言うと、中国・魏から卑弥呼に与えられたと記された100枚の鏡が三角縁神獣鏡であるという説が1920年代に提示されたことは有名です。その説はその時点では蓋然性のある仮説のひとつだったでしょう。しかし、その後この鏡が中国から1枚も発見されないという事実や、その後国内で大量に見つかったことなどから、この説が正しくないことは、普通に考えれば明らかです。考古学であるという前に、それが常識というものです。

ところが考古学の世界ではまだこの説が、否定されていないし、この本でも有力な説のひとつとして解説されている。さすがに上記の論点は示されているけど、そこから帰納的推理を繰り返すという態度が見えない。これでは旧石器発掘捏造事件への反省が生かされている、とはちょっと言えない。考古学界における正しい政治的態度を知るには良いかもしれないが、僕にはがっかり系の本でしたね。

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