神殺しの日本

またまた梅原猛を読みました。「神殺しの日本」(朝日新聞社:2006年)です。

題名につられて図書館で借りたのですが、中身は朝日と日経新聞に連載したコラム集でした。ここで梅原は自分の思想がどのように形成されていったかを分りやすく語ります。

梅原は日本で2度神殺しが行われたと言います。最初が、明治における廃仏毀釈であり、神仏が一体となった日本の宗教で仏を殺すことにより、神もまた死んだのだと。ここで言う神とはもちろん縄文から連綿として続いてきた多神教の神々、修験道の世界です。そして、2度目は現人神という一神教の元で行われた戦争の敗戦の結果としての、神道の否定です。

梅原は西洋より徹底的に神殺しが行われた結果、その報いが今の精神の荒廃という形で表れてきているといいます。そして小泉八雲が礼讃した日本人の精神の美しさを取り戻すためには、第1の神殺し以前に戻る必要があるというのです。

僕が梅原を尊敬するのは、彼が単なる思弁家にとどまらず、文学や考古学という形を通じて様々な行動を起こしていることです。例えば諫早湾の埋め立て(彼はそれをナチスの所業にも等しいホロコーストと呼ぶ)を糾弾するためにスーパー狂言「ムツゴロウ」を書きますし、古事記という日本の古典を生かすため、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を書きます。

彼はまるで高まる名声に対抗するかのように、ドンキホーテのように行動し、決して同じところに止まっていません。そこが彼にとっての偉大な先達であり、批判の対象でもある和辻哲郎や西田幾太郎とは根本的に違うところです。

この本の後半では彼の生い立ちから勉学の日々、戦争の体験、哲学者としての歩みなどを半生記のように書いているのですが、その中に梅原の小学校時代の写真がありました。僕は紀伊国屋書店を講演に訪れた梅原猛を、実際に見たことがあるのですが、そのときの老成した梅原に見た夢想者のオーラのようなものが、少年時代の写真にすでにあることに驚きました。

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