人は放射線になぜ弱いか

読書

改訂新版「人は放射線になぜ弱いか」近藤宗平 ブルーバックス

「放射線による健康被害には閾値がなく、被曝線量と発癌性には線形の関係が成り立つ」という閾値なし線形仮説(LNT仮説)に対する反証として、池田信夫氏が取り上げていたのがこの本。

さっそく読んでみたが、読み終わった感想は微妙である。

筆者は原爆直後の広島の調査に始まり、遺伝子学や放射線医学を研究してきた人だ。この本は基本的には、副題「放射線恐怖症をやわらげる」にあるように、微量の放射線が健康に問題ないと主張することがテーマとなっている。だが、この本はそこに直接フォーカスするのでなく、生命機構や遺伝と進化の仕組みから掘り起こす内容となっている。放射線が遺伝子や細胞に与える影響が、進化過程の本質的な要素であることが前提だからだ。

だから本題の微量放射線の影響までに辿りつくまでが長い。そしてやっと辿りついた本題部分は、ちょっとトートロジー的である。それもそのはずで、LNT仮説を例証するデータがそもそもないのだから、ないものはないという主張にしかならない。これは幽霊の存在を否定することが困難だということと同じである。

むしろこの問題の本質は、放射線がまとう強力な神話性にある。実際、放射能あるいは放射線というだけで、人々は恐怖に立ちすくみ、身構える。そのように張り詰めた「空気」に、理論の入るすきまなどないのだ。

それはそうとして、この本で気になったのが、放射線の単位である。この本は改訂されてはいるが初稿は古いので、文中の単位が古いままである。それは仕方がないことなのだが、被爆に関する単位としてラド・グレイの系列とレム・シーベルト系列の関係がほとんど説明されてない。後者は放射線の種類による人体への影響度が考慮されているのだが、そこが曖昧なままで話が進んでしまう。筆者の見解は、α線だろうがβ線だろうが、放射線には変りないということなのだろうか。そこは結構重要なところなので、よく説明して欲しかった。

結果として、この本は僕の微量放射線に関する疑問に十分に答えたとは言えない。しかし、問題の本質がそもそも物理的なあるいは生物学的な研究を越えた社会心理学的な領域にあるのだから、それを非難することもできないとも思うのである。

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