神々の国の首都

歴史

僕は異境に魅せられた人たちが好きです。そのような人たちの中には、その地を愛するあまりに、その地の隅々まで探求し、いつか伴侶を得、その地のことを海外に紹介し、ついにはその生を全うするまでその地に留まる人もいます。

 「怪談」で知られる小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーンは、正にそのような人生を生きた人です。

 「神々の国の首都」は、ハーンが残した多くの著作のうち、日本到着直後の印象から神々が住むという出雲への旅と滞在の手記をまとめたものです(多くは「Glimpses of Unfamiliar Japan」からのもの)。ハーンは道すがら、日本人が既に忘れ去ってしまった手作りの様々な玩具、手ぬぐいの意匠、道端の地蔵などに繊細な美を見出していきます。月明かりの中に遭遇した盆踊りで見た娘たちの踊り、虫の音、太鼓の音、浴衣姿、素朴な人々の様子を、魔術的ともいわれる表現で見事に描いています。英語教師として最初の赴任地である松江では、神話と共に生きる人々の生活を、深い共感と共に描いています。
彼は驚くべきことに、外国人で始めて出雲大社に昇殿を果たし、当時天皇家に匹敵するほどの宗教的権威を誇っていた出雲国造家の千家尊紀に面会し、出雲の神々の話を直接聞くことになるのです。

 僕はこのブログで特定の本を薦めたりはしていないのですが、もし何かひとつ薦める本があるかと問われれば、おそらくこの本を挙げると思います。なぜなら、日本にかつてどこにでも存在した(そして残念なことにそのほとんどを失ってしまった)繊細な美と気高い精神を、これほど見事に表現している例を知らないからです。

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アイルランド人の父とギリシャ人の母を持つハーンは、ギリシャ神話と出雲神話の共通性を直感していました。いまでは主に構造的な見地から両神話の共通性は議論されていますが、僕の胸をうつのは、そのような議論ではなくて、ハーンやレヴィ=ストロースら異境に魅せられた人たちの共感のまなざしです。

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