REMIX

ローレンス・レッシグのREMIXを1ヶ月半かけて読んだ。忙しかったので、全て通勤電車で読んだのだが、通勤時間は短いのでこれくらいの大著になるとどうしてもそのくらいの時間が掛かってしまう。レッシグはクリエイティブ・コモンズというインターネット時代の新しい著作権のルールを現実的なものにした人だ。具体的には「この条件を守れば私の作品を自由に使って良いですよ」という意思表示をする枠組みを作り、それを現実社会において流通させることに成功した。今では多くの人がHPやブログなどで実際にクリエイティブ・コモンズのマークでその枠組みを利用している。

根底にあるのは作品というものが、既に存在する作品を参照することによって成立しているという基本的な事実である。いかに先鋭的な芸術家でも実際には過去の作家の圧倒的なリソースの上に成り立っているのであって、世の中に完全なオリジナル作品などというものは存在しない。

もうひとつは、過去においてはコピーというものが技術的に困難だったことがある。この困難さがコピーを現実的なレベルで抑制していたが、インターネットとIT技術はコピーを事実上タダで簡単なものにしてしまった。そしてこの現実が現在の著作権法では、多くの若者を犯罪者にしてしまうということだ。レッシグの議論は、若者を犯罪者にするという枠組みこそが見直されなければならないということになる。

このあたりは多くの議論がなされた領域であり新しい論点ではないが、レッシグはこの本でさらに議論を進める。彼が描くのは、共有的なシステムと営利的なシステムの共存であり、それが新しい文化と商業のパラダイムを作るだろうという予告である。著作権という切り口から、営利的な社会と利他的な社会の共存としての社会システムの再構築というような大きなスケールに発展していく。実際、僕はこの本を読んでいて、長編小説を読んでいるような高揚感を感じた。

レッシグという人は、つくづく多才な人だと思う。クリエイティブ・コモンズに至るまでの著作権に関する論考は、まさに法学者のものだし、クリエイティブ・コモンズを成功に導いたのは実務家としての才能だ。そして今回の著作はストーリーテラーとして、壮大な物語を描いていく感じがする。もちろん、ただの観念的な物語ではなく、現実との絶え間ない闘争の果ての文化あるいは商業のあり方ではあるのだが。

レッシグのこの予告が実現するかどうかは分からないが、この世界が観念と現実との間で絶え間なく揺れ動いていることは事実だ。そしてこれからの社会が抽象的なレベルでハイブリッド=RIMIXとして存在し続けることは間違いない。この本はそのREMIXのひとつのメタファーとして楽しむべき作品かもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました