チョムスキー入門 生成文法の謎を解く

読書

チョムスキーの「言語と認知」を読んで面白かったので、今度は入門書を読んだ。本人の著作と入門書のどちらを先に読むのが良いかは一概には言えないが、どちらかと言えば本人の著作を先に読むほうが楽しい。今回もそのパターンだが、ちょっと違うのは、今回の本が入門書と言いつつ、実はチョムスキーの思想の本格的な批判の書ともなっていることだ。

チョムスキーは人の言語能力の基本的な部分が生得的なものであるという、革命的な知見を提示した。そしてその理論を支え、発展させたものが「生成文法」である。というのが、ちょっと教科書的な知識で、今回はその中身が分かるはずだった。

ところがこの本を読み進めていくと、生成文法がまだかなり怪しいということが分かる。この町田健という人の解説は論理的かつ分かりやすく、また生成文法が外部的な批判を受けその理論的骨格が揺れ動いてきた理由を明らかにしている。

思えば、チョムスキーの議論の出発点はいわゆる「プラトンの問題」つまり、人間の子供はなぜあんなに早く複雑極まりない言語を習得するのか、そして「データが不完全なのに獲得される言語は完全となるのはなぜか」という問題だった。この点については本書でも指摘されているように、言語習得の相対的な速さを絶対的な早さと言い換えているのではないか、という批判は免れない。

近年の生物学的な研究から人間の脳の組織、そして思考のメカニズムが徐々に明らかになってきたが、人間の脳の計算能力に比して言語習得が生得的な能力を前提としなければならないほど早いとは、現在断言できるものでもないだろう。また少なくとも、生成文法が生得的な能力と可塑的な能力の境界を示していないことは確かだ。

チョムスキーは言語の意味においてソシュールが果たした同様の成果を、言語の構造という面で成し遂げたと言われることがあるが、残念ながらその賛辞は早すぎるかもしれない。

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