ショーン・タンの「遠い街から来た話」

アート

 

傑作「The ARRIVAL」の作者ショーン・タンの新作。今回はこれまでの作品と異なり、小さな物語をコラージュのように集めている。

まず引っかかったのが日本版の題名である。原題は”Tales from Outer Suburbia” で、直訳すると「郊外の外側からの物語」だろうか。僕が思うに、この本に収められた物語は、日本版題名に言う遠い町の物語ではない。そうではなくて、子供の頃に町のどこかで拾った壊れたおもちゃ、公園で見つけた子猫、町のはずれで感じた隣町の匂い、そんな誰もが経験する子供だけの記憶をタンの手法で再構成したものだ。つまり町の内側から境界線の物語であって、外部の異質な世界の物語ではない。

もうひとつは、この本が小さな物語が大きな物語を構成するというような構造を持っていないことだ。この本でタンは以前のような「大きな物語」を語るのでなく、小さな物語をひたすら散文的に語る。

結果としてタンのひとつの特徴だった神話的な色彩が、この本ではかなり薄くなってしまった。うーん。やっぱり「The ARRIVAL」の路線の方が良かったと思うけど。

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