「記紀万葉集」を記述したのは白村江亡命百済人だった

歴史

以前このブログで、記紀などの古代文書における奇妙な仮名遣いである「上代特殊仮名遣い」についての山口謡司氏の仮説(中国人が書き分けた)を取り上げたことがあった。その時に同様の仮説を唱えた本として藤井游惟氏の書かれた「白村江敗戦と上代特殊仮名遣い」を取り上げた経緯がある(後に記すとおり藤井説は異なるものだったが)。丁度藤井氏が27日(昨日)に講演される機会があることを氏にお知らせ頂いたので、もちろんのこと講演会に行ってきた。場所は安本美典氏の邪馬台国の会がよく使っていた、大井町の「きゅりあん」で、「考古学を科学する会」の主催である。

結論から先に言うと藤井氏の説は、白村江の敗戦に伴い大量に亡命してきた百済人およびその子孫が、記紀や万葉集の一部の文字を朝鮮語の音として書き分けていた、というものである。つまり日本語(5母音)としては同じ音(イ段、エ段およびオ段に限る)が、朝鮮語(8母音)では異なる音として弁別されたということである。

こう書くだけでは、何のことやら分からないが、藤井氏の講演では、歴史の背景はもちろん音声学の初歩の初歩から説明があった。これは大変ありがたかった。お恥ずかしいが、僕は音声学(phonetics)と音韻論(phonemics)の区別も知らなかったのである。前者は一般言語学の範疇だが、後者は個別言語の音韻を分析する。

そしてこの問題を説くための最も大事な概念が、「異音」(allophone)である。この概念を理解して記紀万葉集における実際の仮名の用法を調べれば、上代特殊仮名遣いの謎が解けるというのが藤井氏の主張である。少なくともそのように僕は理解した。

この問題は本居宣長が発見し、その後様々な説が議論されてきた経緯がある。講演では過去の議論と藤井説の論点が簡潔に紹介された。しかし最も説得力があったのは、中国語、朝鮮語および日本語の発音で記紀万葉を発音したサンプルを、口のアップと共に聴かせていただいたことである。確かに一目瞭然とはこのことだろう。外国人が書き分けたとは直感的に正しいと思っていたのだが、今回理論的に理解したと思う(たぶん)。

今回、藤井氏の著作(CD付き)を購入できたので、再度じっくり考えてみたい。

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