ミステリオーソ

読書

原尞の「ミステリオーソ」 早川書房

探偵小説って結構好きで、昔はよく読んだものだ。日本では原尞の作品はすべて読んだ。といっても、原尞という人は寡作の人で、長編はわずかに3編のみである。それと短編集が一冊出版されているが、僕の知る限り彼の作品はそれで全てだ。

「ミステリオーソ」は副題に「映画とジャズと小説と」とあるが、原の雑文を集めたような本だ。原はもともとニュー・ジャズ系のジャズ・ピアニストとして活動するが表舞台に立つことはなく、次に映画のシナリオを手がけるが結局うまくいかず、最後にハードボイルドの小説に賭け、ついには直木賞を受賞するという破天荒な生き様の人である。

ジャズにしろ、映画にしろ、小説にしろ、原の興味の範囲は極めて狭く深い。これと思った作家を見つけたら、その作家の作品を全て年代順に読破する、というようなタイプの人だ。

どうやら原は彼が理想とするレイモンド・チャンドラーのような探偵小説を書くこと以外に、文章を洗練させる気がないようだ。小説でない原の文章は、彼の小説とは全く異なり雑然としてまとまりがない。つまり彼の職人芸の対象=探偵小説でない文章は、彼の世界の付け足しに過ぎないのだ。

彼が創造した探偵の名は沢崎というのだが、その沢崎がいかに誕生したか、が彼の雑文から浮かび上がるのは興味深い。おそらく誰もが感じることだろうが、原尞という人は自身でハードボイルドな人生を生きようとしている。事実、この本を読み進むうちに、原尞と沢崎がダブってくる。彼の小説論にはバルザックが登場するが、バルザックも自らが創造した登場人物が実際に生きていると勘違いすることがあったのは有名な話だ。

原尞も多分時々沢崎と話しているのだろう。彼の場合は自己との対話として、かもしれないが。

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