地図のない道

読書

福岡伸一の本「世界は分けてもわからない」で彼が影響を受けた作家として挙げていたのが、イタリア文学者で随筆家の須賀敦子である。

須賀敦子はこれまで僕の読書世界の外にある人だったが、これを機会に読んでみることにした。彼女は随筆家として名高いらしいが、現実をしっかり踏まえた上で超越的な物語に自らを追い込んでいくようなタイプの作家だと思う。現実に潜む幻視者とでも言うべきか。

彼女の処女作を借りたかったのだが、図書館にあったのがこの「地図のない道」だった。彼女のイタリア時代の生活を淡々と描いているのだが、(彼女流の表記に従って)ヴェネツィアのゲットの描写が面白い。読み進めるうちに、16世紀の高級売春婦であったコルティジャーネを描いたとされるカルパッチョの有名な絵を読み解く展開になってきた。

ここで初めて福岡伸一が、彼の謎解き仕立ての本の「謎」を須賀敦子から得ていた事に気がついた。つまり、福岡の本もカルパッチョの絵の謎から始まるのである。謎解きというのは、思考の領域に関わらず魅力的な手法ということなのだろう。

須賀敦子はどうやら考古学者の森浩一のいとこらしい。森浩一は明晰な論理で本を書く人だが、考えて見れば、考古学はそれ自体が謎解きである。というのはちょっとこじつけだろうか。

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