魔女ランダ考

父が亡くなりしばらく忙しかったため、ブログを更新してなかった。父を看取り、実家で喪主として葬儀を行い、先週東京に戻ってきたのだが、今度はPCの調子が悪くなって一時ブログを更新できなくなってしまった。だから久しぶりの更新である。

「魔女ランダ考」は中村雄二郎が、魔女ランダの活躍するバリ島の演劇的で空間的な宗教世界、コスモロジーを考察した論考だ。名作との評判で借りてみたのだが、確かに面白い。評判に偽りなしであった。

中村は徹底的に西洋哲学の方法論を用いてバリの魔法的な世界を分析する。その論考の中心をなすのが演劇知という概念である。中村はバリの演劇的空間をパフォーマンス、コスモロジー、シンボリズムという要素に還元して見ていく。その分析過程で中村が参照するのが、「ダブル・バインド」のベイトソン、「知の考古学」のフーコー、「劇場国家」のギアーツなど、いくつかの思想家の人類学的知見である。中村はそれらの著名な思想家をまるで彼の思想のサブセットであるかのように、自在に組み合わせて見せてくれる。その手際がとても洗練されていて、心地よい。

中村雄二郎が表現しようとするものは、西洋哲学が取り残した東洋的でアニミスティックな世界であり物語である。それにもかかわらず中村が依拠するのは、徹底して西洋的な方法論である。中村は魔女ランダを考察するためにバリを訪れるのだが、彼の個人的なバリ体験は最後まで語られることがない。

バリ島の木陰でガムランの調べを聞きながら、哲学に集中できるというのは、並外れたことだと思う。中村雄二郎は魔女ランダのかける魔法が届かない稀有な人間である。バリに行ったことのある人なら分かると思うが、バリには日本古来の物語世界と共通する何か、精神を弛緩させる魔法的な何かがある。バリにいながらその魔法から逃れることはとても難しいことなのだ。

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