宵山万華鏡

森見登美彦の「宵山万華鏡」 集英社

面白いという評判で借りてみた。京都の本祭の前日に行われる宵山を題材にしたファンタジーだが、推理小説的な要素を散りばめてあり、中々一筋縄では行かない複雑な構成を持っている。小説技法はともかく、この本の主題は祭りの魅惑、幻惑である。

森見登美彦は奈良の生まれで京大卒とあるので、宵山は子供の頃から毎年通ったのだろう。この本には最後にひとつに収束するいくつかの物語が語られるのだが、その全ての物語に宵山の喧騒、熱気、不思議が満ちている。

祭りは僕も好きだ。故郷の北九州市には映画「無法松の一生」で有名になった小倉祇園があるが、僕が楽しみにしたのは明治時代に始まった八幡製鉄所の祭りである「起業祭」だった。今でももちろん存続しているが、僕が子供の頃の起業祭は、宵山とは異なる南米のカーニバルのような別種の熱気が残っていた。会場にはサーカスがふたつテントを張り、見世物小屋が立ち並び、付近の道は露店で埋め尽くされた。

祭りは子供にとって、魅惑と同時に恐怖だ。人ごみの中で油断をすれば誰かがさらっていくかもしれない。当時の子供は誰もがそう感じていた。

残念ながら、北九州では八幡製鉄所の終焉と共に起業祭の魔法は解けてしまったようだ。京都の宵山では未だに万華鏡の中に魅惑と恐怖が閉じ込められているのかもしれない。

読書

Posted by artjapan