幻想に生きる親子たち

岸田秀の「幻想に生きる親子たち」 文春文庫

内田樹が「日本辺境論」で参照していたのが岸田秀である。精神分析医や心理学者の本は色々読んできたつもりだが、岸田秀はなぜか僕の読書対象から外れていた。

岸田秀は個人の精神的な葛藤から心理学の世界に入ったようだ。彼の生い立ちと心理学との関わりも興味深いのだが、面白いのは彼の日本人論だ。岸田は日本人を、西欧の進んだ文明を崇拝する外的な自己と外国を憎悪する誇大妄想的な内的な自己に引き裂かれた存在として描き出す。そしてそのような自我の分裂の始まりは、7世紀後半に唐・新羅の連合軍に大敗した白村江に戦いに始まると言う。もちろんフロイト的な個人の分析手法を国家レベルの下意識に適用出来るかという批判はあるだろうし、実証性に欠けると言う批判は当然だと思う。

しかし岸田の論には「そうかもしれない」と思わせるだけの説得力がある。それは、単なる心理学の枠を超えたメタレベルの思考が前段としてあるからだ。この本には心理学の簡単な系譜が述べられているのだが、その的確さが、細分化、タコツボ化した学者への批判と成り得ているのも同様の理由、つまりある種の俯瞰的な視点によるものだと思う。

フロイトが書いた「モーセという男と一神教」の、岸田による解説は大変面白かった。図書館で手には入るかな?入れば、ぜひ読んでみたいと思う。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です