ハーモニー

伊藤計劃の「ハーモニー」を読み終えた。

政府による監視が極限まで達した近未来の話。体内の機器で体の状態を常にモニターし、物理的な健康のみならずストレスや葛藤のない精神的な健康を維持するシステムが存在する社会が描かれているけど、全く近未来=SFのにおいがしない。作者がうまいのか、今の社会が歪んでいるのか、主人公たちの会話や行動に、現在社会のほんの半歩先のようなリアリティがある。

考えてみればこれは恐ろしいことだが、読者にそういう疑問を生じさせるという時点で、伊藤計劃の目論見はほとんど成功していると言える。

文中にしばしば現れるタグで囲まれた文章は、やはり感情に関連したetmlという名前のMarkup Language(ML)という想定だった。物語の大筋には影響ないが、完全な思考として制御された人格に感情を喚起するためのMLという位置づけである。現実世界で標準化が行われている感情を記述する目的のMLにはEmotionMLという名前が付されているが、伊藤計劃がこの情報をW3Cから得ていた訳ではなく、彼の未来予測の一部であったと思う。

伊藤計劃は豊かな想像力を駆使して、悪夢であるべき世界を、ありふれた「現実」として描いたのだ。

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