昭和のエートス

内田樹の「昭和のエートス」 バジリコ

内田樹のコラムには軽いめまいを覚えるようなある種のズレの感覚がある。内田は誰もが疑問を持たないような、あるいは誰もが見過ごしてしまうようなトピックに巧妙に入り込み、その正体を明らかにしてしまう。我々が無意識に前提としていること、疑いなく受け入れている事実が、がらがらと崩れだす。

例えば昭和の記念碑である1964年の東京オリンピックについて、僕自身は肯定的な感覚を持っているのだが、内田はそれが起こったためにいかに多くのことを我々が失ってしまったか、について語りだす。

内田の言説の多くは変革に対する批判という形をとる。だけどその本質は、回顧でも尚古でも単なるレトリックでもない。内田はその一見いいかげんな言い回しの中に、失われたものあるいは失われつつあるものが実はとても豊かな内実-複雑系といったほうが良いかも知れない-をその背後に有していたことを、断固として明らかにするのである。

内田の教育論も中々楽しい。

教育現場の荒廃について、メディアの批判は教育者の資質に向けられるのが通常であるが、内田はそのような批判は現代では容易に子供に共有されるという運命をたどるのであり、その結果として教育が構造的に成り立たなくなっていくことを批判する。

教育者としての内田のこの言説はいささか自己防衛とも取れるが、構造主義者の面目躍如たるところとも言える。いずれにしろ常に批判的にものを考えるきっかけを与え続けてくれるという点において、内田は良い教育者であると言えるだろう。

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